流された木札
王国の浅瀬で、帝国の岸から流れた木札が拾われた。刻まれた数字は軍の部隊番号に似ており、兵たちは攻撃予定を読み解こうと騒いだ。セイルは木札の表面を見て、水に浸かった跡と新しい切り傷を確かめた。数字は規則正しく並んでいなかった。
渡し守は木札を見て笑った。筏を組む職人が、木材の長さを示すため使う札だという。先日、帝国側で筏が沈んだ話も村に伝わっていた。セイルは木札をそのまま持ち、軍の測量官に寸法が一致するか確認させた。数字は長さを表す古い単位に合っていた。
ただし、帝国が工兵の物を使って偽の情報を流す可能性もないとは言えない。セイルは札から進攻日を推測する意見を退け、舟や兵が実際にどこへ動いたかを見るよう助言した。知らない数字を秘密だと思うのは容易いが、その意味を確かめる仕事は地味だった。
夜、王国の見張りは増えた。木札の真偽が分からない間、警戒を緩める理由はない。セイルは兵に休憩を取らせ、木札一枚のために全員を起こしておかぬよう頼んだ。敵の動きに備えることと、敵の思惑に生活を支配されることは違う。
流木と一緒に岸へ着いた板には、釘を抜いた痕もあった。渡し守は筏の修理中に外したのだろうと話したが、軍の工兵は別の用途を考えた。セイルは二人の見方を並べて記録し、どちらも確定させなかった。異なる仕事をしてきた人間なら、同じ傷から別の理由を読む。
翌朝、木札は乾いて少し反った。渡し守は同じ寸法の古い板を持ち出し、並べて見せた。セイルはそれを記録へ添え、敵軍の印とは断定できないと報告した。意味の分からない物が川から来ても、分からないまま残せる強さが必要だった。




