名を呼ばれない将軍
レオンハルトの軍議で、クラウスが砂州への追加部隊を求めた。会議にはサビーネも報告書で参加していたが、将軍たちは彼女の案を自分たちの意見として話した。皇帝はそれに気づき、誰が現地で水位を測り、交代配置を決めたのか尋ねた。
クラウスはサビーネの働きを認めたうえで、上申は帝国軍全体のものだと説明した。レオンハルトはその理屈を否定しなかった。しかし現地の判断をした者の名前が消えれば、次に問題が起きたとき責任の所在が分からなくなる。彼は報告書の出典を会議録へ残すよう命じた。
サビーネは追加兵力を望んでいなかった。川の湿気で病人が増え、今必要なのは後方で休ませる場所だと書いていた。皇帝は二つの意見を並べ、サビーネに現地の必要人数を再計算させた。増員は多ければ多いほどよいわけではない。
夕方、クラウスは皇帝に私的な面会を求めた。「私は彼女の功を奪うつもりではありません」と言った。レオンハルトは頷き、だからこそ本人の言葉が届く仕組みを残してほしいと答えた。忠実な部下同士でも、机の近さが声の大きさを変えてしまう。
サビーネの要請した靴職人は、軍の帳簿では戦闘に従事しない者として数えられていた。クラウスは最初、その人数を部隊増援に含めようとした。皇帝は異なる役割を一つの数字で済ませないよう命じた。靴を直す手があれば見張りの兵は歩ける。
翌朝、サビーネの新しい報告が届いた。追加部隊ではなく薬剤師と靴職人を求める内容だった。皇帝は承認し、クラウスにも写しを送った。軍の力を数えるとき、兵の頭数以外に何を見ればよいかを、二人の将軍が同じ紙で学び始めていた。




