石工の弟子の帰郷
王国の石切り場で働いていた若い弟子が、故郷へ戻る許可を求めた。父の畑が荒れ、弟一人では耕せないという。セイルは以前怪我をした親方に話を聞いた。弟子は石積みをよく覚え、今いなくなれば工事が遅れる。しかし家の麦も放っておけない。
ダリオは軍が賃金を払っている以上、契約期間を守るべきだと言った。弟子は黙ったまま手を擦った。セイルは契約書を読み、病気の家族の世話について何も書かれていないことに気づいた。規則にないから拒めるとは限らず、規則にないから全員を帰してよいわけでもない。
石工たちは仕事の順番を見直した。弟子が得意な仕上げを先に終え、残りを別の二人が引き継ぐ。親方は寝台から石の選び方を説明し、弟子に帰っても石を忘れるなと笑った。セイルは軍の許可が出るまで、帰郷を約束しなかった。
許可が下りたのは三日後だった。弟子は自分の道具を残し、家にある古い鍬の柄を直したいと言った。セイルは必要な木材を荷物へ加える手伝いをした。軍用の道具を勝手に持ち出さぬよう、職人組合から譲られた端材だけを使った。
帰郷のための馬車には、他の職人が包んだ種と小さな金槌が積まれた。軍からの貸与品ではなく、組合が贈った道具だった。弟子は礼を言い、家の畑を立て直したら戻ると約束した。親方は「約束は畑の具合を見てからにしろ」と笑い返した。セイルはその言葉に安心した。仕事へ戻る道を残すことと、帰る日を無理に決めることは違う。
見送りの日、弟子は石切り場の入り口へ小さな印を彫った。戻ってこられるかは分からない。それでもどこに仕事を残したか忘れたくなかった。セイルは印を指で触れ、帰る場所を守るために離れる者もいることを思った。




