沈む舟と浮く筏
帝国の砂州で、補強工事に使う筏が一つ沈んだ。サビーネは過積載だと報告したが、筏の木は十分な太さがあった。レオンハルトは積んだ石の量と、筏を結んだ綱の位置を調べさせた。石は中央に寄り、片側の水流が筏を持ち上げていた。
皇帝は工事を一日止め、川で長く働く筏師を呼ぶよう命じた。職人は石の積み方よりも、筏をつなぐ杭の高さを問題にした。増水すると綱が水を切り、反対側へ強く引かれる。船乗りではない軍の工兵には、その癖が分かりにくかった。
クラウスは工事が遅れれば王国に時間を与えると懸念した。レオンハルトは遅れを認めたうえで、石を捨てて兵を失うよりよいと答えた。サビーネは現地で積み直しを指揮し、筏師の助言を取り入れた。次の筏は石を二度に分けて運び、転覆せず岸へ着いた。
沈んだ筏からは、一つだけ工具箱が見つからなかった。下流の村へ漂着すれば子供が触れて怪我をするかもしれない。皇帝は河岸の役人へ知らせ、引き上げの謝礼を設定した。戦場の道具が水に落ちれば、川の向こうの人にも危険が届く。
工具箱を拾った下流の農夫は、軍の金具が家の畑へ流れ込むのを心配していた。役人が引き取りに来ると、農夫は謝礼より先に川岸の掃除を求めた。皇帝は軍の工兵を少人数だけ派遣し、流木に絡んだ釘を回収させた。補強工事の石は川へ沈んでも、金具は子供の足に刺さる。後始末まで工事の一部として帳簿に残った。
夜、サビーネから工事再開の報告が届いた。遅れは二日となったが、補強した岸は前より長く持ちこたえそうだった。レオンハルトは新しい工程表を承認した。速度を落とす選択もまた、前へ進むための仕事になり得る。




