裏返した盾列
王国の丘で、帝国の工兵が砂州に大きな木枠を運んでいるのが見えた。将校の一人は舟を隠す設備だと考え、全弓兵を川辺へ寄せようとした。セイルは木枠の長さと、運ばれる杭の数を比べた。舟を伏せるには形が合わない。岸を補強する枠かもしれなかった。
ただし、工事が上陸の足場になることもある。セイルはダリオへ、動かせる兵の半数をそのまま丘に残し、残りに盾を裏返して置く訓練を頼んだ。盾の内側を地面へ向けると、泥に沈みにくい仮の足場になる。川辺で追われたときの退路を確保するためだった。
新兵は盾を土へ置くことを嫌がった。傷めば次の戦いに使えない。セイルは不要な古盾を集め、実際に泥の上へ並べて試した。すべてがうまくいったわけではない。割れた盾は沈み、革紐の切れたものは足を取った。使える種類が分かると、隊は訓練の意味を理解した。
夕方、帝国側では木枠が川岸へ固定された。王国側の兵は弓を引かず、セイルの示した場所へ盾を戻した。彼は相手の目的を断定しなかった。工事が防御なのか攻撃の準備なのか、どちらでも起こり得ることを並べた。
古盾を運んだ兵は、使えない盾をなぜ残すのか不思議がった。セイルは割れた場所を指し、次に同じ素材の盾が泥へ沈まないよう確かめるためだと説明した。隊長は廃棄する前に、どの部分が壊れやすいか記録することにした。失敗した道具が教えることもある。
ダリオは「何も決めないように聞こえる」と言った。セイルは「決めることと決めつけることは違います」と答えた。予備兵の位置は決めた。見張りの人数も決めた。ただ、まだ見えない敵の意図だけは、地図へ書かなかった。




