皇帝の読めない歩幅
レオンハルトは砂州から届いた最新の観測図を見た。王国の交代兵は以前より広い範囲を歩くようになり、人数を数えるのが難しくなっている。サビーネは相手が観測窓の位置に気づいたと考えていた。皇帝も同意したが、それだけで敵が新しい攻勢を準備しているとは判断しなかった。
クラウスは川の上流へ偽装した兵を出し、王国の予備軍を動かす案を示した。皇帝は偽装の利益を問い、こちらの舟がどこへ行けるかを先に確認させた。上流の岸は泥が深く、実際の上陸には向かない。偽の進軍でも兵を出せば、補給と休養を消費する。
レオンハルトは少人数の工兵に、砂州の西端へ新しい木枠を運ばせた。大軍の準備に見えるかもしれないが、本来は水に削られた岸を補強する工事である。皇帝は工事を止めず、相手がどう解釈するかを観測させた。偽りの動きでなく、本当の必要から生まれた動きの方が長く続く。
翌朝、王国軍は丘の見張りを一組増やした。しかし予備軍は動かなかった。クラウスは敵軍師の胆力を認めるべきだと言ったが、皇帝はまだ相手の判断を測る材料が足りないと答えた。動かなかった理由が勇気なのか、命令が届かなかったのか、紙の上では分からない。
木枠を運ぶ工兵は、王国側の見張りが増えたことに気づいていた。サビーネは作業を早めたいという声を退け、昼の決まった時間だけ杭を打たせた。夜中に音を立てれば奇襲と誤認されるからだ。
レオンハルトは河岸にある井戸の位置を確認し、砂州の兵の水を優先した。次に相手を動かす前に、自軍が動ける状態を保たねばならない。皇帝の地図には複数の進路が残り、そのどれにも決定の印は付かなかった。




