夏草の下の杭
王国の河岸に、新しい観測台が帝国側に立ったとの報告が届いた。セイルは木柵の隙間から対岸を見た。高い岩場の影に小さな窓が開き、見張りの顔は見えない。王国兵はすぐ射手を集めて潰そうとしたが、距離が遠く、矢を使い果たすだけになりそうだった。
セイルは後方の草地に古い測量杭があることを思い出した。数年前の洪水で埋まった杭が夏草の下に残っている。工兵はそれを掘り起こし、川の曲がり角からの距離を測り直した。対岸の窓から見える場所と、岩の陰になる場所が少しずつ分かる。
ダリオは夜間の兵の交代路を変更した。以前は同じ小道を通っていたが、観測窓から人数を数えられる恐れがある。セイルはすべてを隠す必要はないと助言した。隠れようとして一本の道へ集中すれば、かえって狙いを定めやすくなる。
その夜、交代兵は草地の端を広く通った。帝国側からも動きが見えただろう。しかし何人がどの持ち場へ行ったのか、離れた岩場からは読み取りにくい。王国兵は不安げだったが、セイルは歩く速度を変えさせなかった。急ぐ足音は、危険の場所を知らせることがある。
観測台から見える草地の境には、小さな農小屋が一つ残っていた。無人だと思われていたが、持ち主は昼だけ道具を取りに来ている。セイルは新しい交代路と農夫の通路が重なるのを見て、軍へ時刻を伝えた。敵に見られぬため住民を追い出しては、守る土地の意味が変わる。
朝、掘り出した杭の根元から古い陶片が出た。地元の男は洪水前に川辺にあった茶屋の皿だと笑った。戦争で使う測量の目印も、かつては人が休む場所の近くにあった。セイルは陶片を持ち帰らず、地元の者へ渡した。杭は新しい位置を記され、再び草地へ立った。




