形を変えた足跡
王国の山道で、帝国の騎兵が進んだような蹄の跡が見つかった。見張りは数十騎の部隊だと報告したが、セイルは地面を見て首を傾げた。足跡の深さが揃いすぎている。人や荷を載せた馬が同じ重さで歩くとは考えにくかった。
森番は、最近木材を運ぶため荷馬を何度も往復させたと話した。重い荷を引いた道では、行きと帰りで蹄の跡が重なりやすい。軍の斥候が測っていた足跡は、数十騎の一度の行軍ではなく、同じ馬の繰り返しだったかもしれない。
セイルは見張りを責めず、蹄鉄の欠け方を確かめさせた。同じ位置に欠けが続けば同じ馬だと分かる。結果は木材運搬隊の馬三頭に一致した。ダリオは敵の接近が誤報だったと知って安堵したが、森番の作業に軍が気づいていなかったことも問題だと指摘した。
木材は村の小橋の修理用だった。軍の許可がなければ森へ入れなくなり、運搬が夜明け前に集中していたという。セイルは通行時間を増やすよう相談し、軍が住民の仕事を見えなくしていたことを認めた。
森番は運搬に使った馬が、一頭だけ右前脚をかばうようになったと告げた。セイルは遠回りの道を提案し、獣医の診察を手配した。敵と誤認された足跡の持ち主は、戦わずとも働けなくなる危険を抱えていた。軍が誤報を訂正しても、馬の怪我を放置してよいわけではない。橋の工事は半日休み、道具だけが先に運ばれた。
夕刻、橋へ新しい板が渡された。馬たちは帰路にゆっくり歩き、同じ場所へ新しい足跡を残した。セイルは見張りへ、明日もこの跡が増えると伝えた。敵を見つける目は必要だが、人が暮らす音や跡まで敵にしてはならない。




