遅れた馬車の手紙
王国の前線で、退役を許された兵の家族へ送る手紙が一束遅れていた。輸送車の荷台で濡れ、宛名が読めなくなったからだ。セイルは書記から手紙を受け取り、封を破らずに届け先を確かめる方法を考えた。差出人の名は残っている。
軍の名簿には兵の故郷が書かれていたが、転居先までは分からない。セイルはミレーネへ頼み、冒険者ギルドの輸送便で家族の所在を照会してもらった。軍の書類だけでは足りないことを認め、民間の仕事を借りる形にした。
一通だけ、差出人が戦死した兵のものだと分かった。手紙は出征前に書かれ、送る時期を本人が決めていたという。上官は遺族へ渡すべきか迷った。セイルは勝手に封を開かず、家族へ手紙が残されていることを知らせるよう勧めた。受け取る時期は遺族が選べる。
雨で滲んだ宛名を一つずつ読み直す間、書記は何度も目を擦った。軍の大きな命令書なら写しがあるが、家族へ宛てた一枚は代わりがない。セイルは仕事を急がせず、机に乾いた布を敷いた。
手紙を乾かした部屋には、濡れた紙の匂いが漂った。書記は宛名だけでなく封蝋の色も書き分けた。中身を知らずに持ち主を探すには、外側の小さな違いが頼りになる。セイルは兵舎の掲示板へ、手紙の届け先が分からない場合に申し出る窓口を知らせた。戦場で失われるのは命だけではない。言葉が家へ届く道も、守らねば途絶える。
数日後、手紙はそれぞれの道へ送られた。届いたかどうか確認できないものも残った。セイルは封筒の端に小さな番号を付け、戻ってきた場合に差出人の元へ辿れるようにした。言葉を運ぶ仕事にも道があり、その道は戦場の地図には載っていなかった。




