縫い目の証言
帝国軍の天幕が強風で裂け、雨を防げなくなった。軍需官は納入した仕立屋を罰するよう求めたが、レオンハルトは破れた箇所の布を取り寄せた。縫い糸は丈夫だった。裂けたのは糸の間ではなく、天幕を引っ張る綱の根元である。
軍の設営手引きには、杭の角度が一つしか描かれていなかった。平原ではよくても、山から吹き下ろす突風には耐えられない。皇帝は仕立屋を呼び、縫い目を強くすれば解決するか尋ねた。職人は首を振った。「布だけ強くすると、今度は木が折れます」
クラウスは兵の設営訓練を増やすべきだと言った。レオンハルトは賛成しつつ、場所ごとの風向きを記録することも命じた。同じ規則を何も考えず使うなら、訓練の数だけ失敗が増える。山の部隊には現地の幕張り職人を招く許可を出した。
破れた天幕は修理され、傷んだ布は包帯用には向かないと判断された。代わりに荷車の荷覆いへ回された。物を最後まで使うことと、危険な用途に使い続けることは違う。軍需官は仕立屋に謝罪し、設営隊の新しい手引きを受け取った。
山から戻った兵は、強風の夜に天幕の外へ出るより、内側の綱を緩める方が安全だと証言した。軍の手引きには書かれていない工夫だった。仕立屋は布がどこで引かれるかを図にし、設営隊は危険な結び目を見直した。皇帝は兵の証言を正式な資料に残した。寝起きの不便も、命を守る知識の一部になった。
レオンハルトは夜の風の音を聞きながら、前線の兵がどんな布の下で眠っているのか思った。地図では一夜を越えれば次の朝になるが、その間に濡れた服を抱えて震える者がいる。皇帝は書状に、修理した天幕を優先的に山へ戻すよう付け加えた。




