水を譲る列
王国の避難地で井戸の順番を巡る争いが起きた。軍の炊事車が先に水を汲み、住民が日暮れまで待たされていた。セイルが訪ねると、井戸番は軍の通行証を見せられれば断れないと話した。兵にも食事が必要だが、家々の水が尽きれば病が広がる。
セイルは桶の大きさと、一回に汲める量を計った。炊事車は大きな樽を満たしており、その間に人が少しずつ水を汲む隙間はある。井戸番と軍の調理長に交代の時刻を決めてもらい、まず飲み水の分だけ小桶を並べた。
調理長は煮炊きが遅れれば兵が腹を空かせると反発した。セイルは大釜の洗浄に井戸の水を全部使っていることを知り、雨水を使える作業と分ける案を出した。医師に衛生上問題のない範囲を確認してからのことだった。
夕方、小さな少女が列から抜け、足の弱い祖母へ水を運んだ。兵は彼女の桶を持ち上げてやったが、少女は自分で運ぶと言い張った。桶から少しこぼれた水は土へ吸われた。セイルは誰にもそれを責めさせなかった。
井戸の列には桶を持てない病人の家族も来た。新しい順番では小桶が優先されるが、何度も往復するのは難しい。井戸番は事情を聞き、隣人が二人分を汲める札を作った。セイルは特別扱いと呼ばず、必要な水を届ける方法として受け入れた。公平とは全員に同じ重さの桶を持たせることではない。夕方、札は濡れぬよう木板へ写された。
翌日、井戸の側に時刻表が掛けられた。軍の樽の時間と住民の桶の時間が色分けされ、井戸番は初めて断る理由を説明できるようになった。水の量そのものは増えていない。それでも列の顔つきは変わった。セイルは空の桶を置き、最後の順番まで見届けてから前線へ戻った。




