見習いの測量縄
帝国の山道を測っていた見習いが、縄を引き過ぎて距離を短く記録した。修正後の地図では関所へ届く道が予想より長くなり、兵糧馬車の到着予定が変わる。レオンハルトは担当官の報告を受け、誤差が戦場へ与える影響を尋ねた。
クラウスは見習いを外すべきだと言った。しかし測量官は、縄が濡れると伸びることを教えていなかったと認めた。見習い一人の不注意ではなく、測り方の規則にも問題があった。皇帝は責任を整理し、測量用の縄を乾かす場所を用意させた。
現地から、長さの異なる縄が三本届いた。乾いたときは揃うが、水へ浸すと伸び方が違う。レオンハルトは軍務院の将校にもそれを触らせた。紙の上では一本の線でも、測った手と道具の状態によって数字が変わる。見習いの名は新しい図面に残された。
山の部隊は到着予定を半日遅らせ、荷馬車が休む場所を一つ増やした。無理に先を急ぐより、馬の脚を守った方が確実だった。見習いは現場に残り、同じ道を別の測量官と測り直した。失敗した場所へ戻ることは、罰としてではなく仕事として求められた。
再測量に同行した老兵は、昔この峠で馬を失ったと話した。道の長さを誤ったのではなく、休ませる水場を知らなかったためだ。見習いは地図の余白へその水場を書いた。ただし今も水が出るかは確認できない。皇帝は老兵の記憶と現地の確認結果を別々に保存させた。経験を軽んじず、経験だけで決めもしない記録が求められた。
皇帝は訂正の知らせを受け、計画の遅れを認める書状へ署名した。自分の命令が間違った数字を頼りにしていたことも明記する。戦場で後戻りができない日を減らすためには、机の上で何度も線を引き直す必要があった。




