河原の迷い子
王国の河原で小さな男児が保護された。帝国側から渡ってきたのではないかと疑われたが、子供は名も村の名前も言えないほど怯えていた。セイルは兵たちへ質問を重ねさせず、まず乾いた服と粥を頼んだ。子供は匙を握る手が震えていた。
左の袖には黄色い糸で鳥の模様が縫われている。避難民の仕立屋がそれを見て、上流の織物町で使う印だと話した。だが織物町は王国の内側にあり、川を越える必要はない。セイルは男児の靴に付いた白い泥を見て、支流の干潟を渡った可能性を考えた。
捜索に出た兵は昼過ぎ、子供を探していた叔母を見つけた。両親は別の村へ移る準備をしており、男児は先に荷車へ乗ったつもりで道を間違えたらしい。叔母は叱りながら抱き締めた。子供は顔を隠したまま泣き、ようやく自分の名を言えた。
兵はこの件を敵の斥候騒ぎとして記録しかけた。セイルは違うと伝え、迷子の保護として届け出を直してもらった。戦場に近い土地では、人が見知らぬ道から現れただけで疑いが生じる。子供の袖の鳥は、秘密の合図ではなく母親が縫った印だった。
男児が使っていた小さな袋には、乾いた木の実が入っていた。叔母は母親が道中で渡したものだと気づき、ようやく安心した顔をした。セイルは袋の口を結び直し、子供へ持たせた。彼は途中で道を間違えたが、家を出たときの約束まで失ったわけではない。捜索した兵は子供の足跡を地図へ残し、支流で道が紛らわしい場所に柵を立てた。
夕暮れ、叔母は川沿いの道を帰った。男児は振り返り、救護所の兵に小さく手を振った。セイルは同じように返し、河原の足跡が雨で消えるのを見た。疑うべき時はある。それでも最初に差し出すものが槍でない日も、失ってはならない。




