三枚の灰色旗
王国の河岸で、夜明けに三枚の灰色旗が見つかった。いずれも古い布で、敵の旗ではない。哨戒兵は帝国軍の合図だと疑ったが、セイルは旗を掛けた木の枝が川上へ向いているのに気づいた。水が増えた日に流木を避ける、古い渡し守の目印だった。
渡し守の孫は、祖父が戦争前に立てた旗だと説明した。色はもとは青だったが、雨で抜けてしまったらしい。軍の連絡札に同じ色が使われていたため、誤認が生じた。ダリオは旗を撤去するよう命じかけたが、地元の人が危険な流れを知らせる印だと知って考え直した。
セイルは旗を別の形へ替える案を出した。渡し守は帆布の端を三角に切り、軍は見張りに使う旗を四角に揃える。細かな約束だったが、川で舟を操る者と、丘で敵を探す者が同じ色を見ても違う意味を取れるようになる。
午後、上流から材木が流れてきた。三角旗の立つ曲がり角で、水面の下から枝が跳ね上がる。舟を出そうとした少年がその動きを見て立ち止まった。セイルは岸へ駆け寄ったが、少年は既に危険を避けていた。教えられた印が役に立ったのだ。
村では新しい旗を作るため、古い帆を切ることになった。捨てる予定だった帆にもまだ丈夫な場所が残っており、舟大工は角を避けて刃を入れた。印の形を変える小さな仕事のために、布の織り目まで考える人がいる。セイルは完成した旗の写しを軍の巡回帳へ挟み、翌日から新しい見張りに教えることにした。
渡し守の孫は祖父の旗を一枚持ち帰った。古びた布を捨てず、家の梁に掛けるという。王国の兵にはただの紛らわしい標識でも、川辺の家には長い間の記憶がある。セイルは新しい三角旗が風に揺れるのを見て、危険を伝える道具も持ち主の手で変わっていくのだと思った。




