弓弦の沈黙
王国の弓兵隊で、湿った弓弦が切れる事故が続いた。セイルは訓練場へ呼ばれ、弓を引く兵の手を見た。力の入れ方に大きな問題はない。しかし弓弦を張ったまま夜を越す者が多く、雨の湿気で麻が傷んでいた。
古参の弓職人は、軍の倉庫が遠いため替えの弦が届かないと言った。補給係は予備を十分送ったはずだと反論した。箱を開くと、半分は太さの違う弦だった。長弓と狩猟用の弓を同じ品目で数えた結果である。セイルは双方に弓の種類を書き出してもらった。
午後、若い弓兵が自分の腕前を疑い、訓練をやめたいと言った。セイルは弓を借り、矢を一本放った。狙いは正確だったが、強く引いた瞬間に古い弦が鳴った。彼は二射目をやめ、傷んだ部分を兵へ見せた。《適正》が動きの角度を整えても、切れかけた糸は新しくならない。
弦の張り替えを待つ間、隊は射撃の代わりに距離の見積もりを練習した。兵は丘の木を指し、歩数と高低差を答えた。命中の数で競えない訓練に退屈する者もいたが、古参兵は距離の読み違いで矢が届かなかった日のことを話した。
傷んだ弓弦を外す作業では、兵が結び目を強く引き過ぎる癖も見つかった。弓職人は結び方を一つずつ見せ、濡れた手で急ぐと麻が裂けると説明した。セイルは自分の指なら結び目を素早く解けたが、若い兵には速さを求めなかった。兵は乾いた布で手を拭い、ゆっくり張り直した。弦の余りは箱へしまわれ、次の雨に備えた。
夕方、職人が正しい弦を届けた。若い弓兵は試しに引き、初めて音が静かだと気づいた。セイルは的の中心を確認せず、指先に傷がないか尋ねた。矢を放つ前に守るべきものがあると知った兵は、弓を丁寧に緩めて箱へ戻した。




