皇帝の古い靴
レオンハルトは軍靴の納入品を見比べていた。新しい規格に揃えたはずの靴には、つま先の幅が二種類ある。工房は同じ木型を使ったと言うが、革を乾かした場所が違った。湿り気を含んだまま仕上げた靴は、歩くうちに形が変わる。
皇帝は古い軍靴を倉から取り寄せた。父帝の時代、国境を巡察した際に履いたもので、革は固くなっていたが底の釘は生きていた。職人は古い靴を分解してみたいと申し出た。レオンハルトは保管されていた一足を渡し、見本として残すもう一足は触らせなかった。
試し履きした兵は、新品より修理した靴の方が足に合うと言った。クラウスは規格化が失敗だと断じたが、皇帝はそう考えなかった。統一した寸法は運送を助ける。ただし、人の足が寸法に合わせて変わるわけではない。新しい規格に幅の区分を追加させた。
工房では余った革を再利用し、靴擦れしやすい兵へ内張りを配ることになった。皇帝は材料の値段だけでなく、修理の手間を算出させた。安い靴でも二度買い替えれば高くつく。歩けない兵の穴を埋める補充にも費用がいる。
靴職人が持参した足型には、指の変形した兵のものもあった。長年の行軍で足が痛み、規格の幅を変えるだけでは合わない。皇帝は個別の修理を認める制度を残した。大量に作ることと、一人の兵を歩けるようにすることは対立しない。新しい工房の帳簿には標準靴と特注の修理代が別々に書かれ、予算を争う理由も明確になった。
夜、レオンハルトは父の古い靴を箱へ戻した。父の治世を継ぐつもりはなくとも、靴の作りまで捨てる理由はない。翌日の報告には、戦線がほとんど動いていないとあった。皇帝はそれを読みながら、兵の歩く距離は戦線が止まっても減らないのだと思った。




