銅鐘の代金
帝国が占領した関所から、砦の鐘を鋳直して警報に使いたいという願いが届いた。レオンハルトは材の出どころを問うた。鐘は古い礼拝堂から運び出されたもので、避難した村人の共同財産だった。守備隊長は放置すれば盗まれると主張した。
皇帝は所有者の同意なしに溶かすことを禁じ、現地の倉庫へ移すよう命じた。代わりの警報には鉄板を用いる案が出たが、音が遠くへ届かないという。工兵が木と金属の組み合わせを試すと、夜間の番兵交代には十分だった。大きな音が必要な場所は別の方法で補う。
リディアは鐘を返しても村人は帝国へ感謝しないだろうと漏らした。レオンハルトは礼を期待していなかった。軍が物を奪わないと決めるのに、好意の返礼は必要ない。むしろ村人が帝国の命令に従わぬ権利を持つ場面もある、と彼は考えた。
村の代表が鐘を見に来た。亀裂が一つあり、いずれ修理が必要だという。守備兵は運搬を手伝い、村人は修理先を探すと答えた。軍の見張り台の下を鐘が運ばれる間、誰も鳴らさなかった。礼拝堂は閉じたままだが、戻る日を選ぶのは住民の仕事だった。
木槌の新しい警報音は、村に残る老人には夕刻の作業終了の合図と紛らわしかった。サビーネは関所で試し打ちを行い、村の代表に意見を求めた。音を一つ増やすのではなく、打つ間隔を変えることで区別できた。
数日後、警報用の木槌が試作された。音は粗かったが、夜警が覚えやすい間隔で打てた。レオンハルトは完成を報告させ、鐘の話とは別の帳簿に記した。戦争で手に入れた土地にあるものを、すべて自分の国の道具だと思えば、やがてその土地に暮らす人の声さえ聞こえなくなる。




