門番の妻
王国の北門で、夜勤を終えた兵が帰宅できずにいた。妻が出産を迎えたとの知らせが届いたが、交代要員が遅れている。セイルは門番の上官と話し、交代の手続きを急がせた。戦時であっても一人の兵が抜けることで門が開け放たれるわけではない。
しかし交代予定の兵は高熱で、出勤できないと分かった。別の隊から呼ぶには時間がかかる。セイルは自分が門へ立つと申し出たが、上官は指揮外の者を持ち場へ入れられないと言った。彼はすぐ引き下がり、城壁の監視を担当する班と門の監視時刻をずらす案を示した。上官が許可すると、門番はようやく走り出した。
夕方、セイルが街を歩くと、産婆を探す男が家々の戸を叩いていた。偶然にも門番の家の隣だった。産婆は別の家で手が離せない。セイルは軍の衛生員に出産経験のある看護師を紹介してもらい、家まで案内した。治療所の仕事を止めずに済む人を選ぶ必要があった。
夜半、母子ともに無事だと知らせが来た。門番は翌朝、眠そうな目で門へ戻り、同僚に赤子の髪が黒いと話した。セイルは祝福の言葉をかけたが、その日の見張り配置には口を出さなかった。持ち場を守る責任は彼のものではないからだ。
産婆は母子の状態を確かめた後、家の水桶が空に近いことに気づいた。門番が駆けつける前に近所の者が湯を沸かし続けたためだ。セイルは兵の仕事とは別に、近所の男と井戸へ行って水を汲んだ。
昼の休憩、門番は新しい布を買いに市場へ向かった。店主は軍服を見て戦の話をしようとしたが、男は赤子の肌に当てても柔らかい布を探していると言った。セイルはその背を見送り、国境に立つ者にも門の外とは別の夜があると感じた。




