石門の裁判
帝国が得た峠の関所で、牧畜民の羊が軍用の縄を噛み切ったと訴えが出た。守備兵は損害の弁償を求め、組合長はそもそも縄が通行路を塞いでいたと反論した。レオンハルトは両者の言い分を読み、軍の裁判官ではなく現地の調停役を同席させるよう命じた。
調べると縄は兵舎の外壁から水桶まで張られ、通行を急ぐ羊の群れにかかる位置だった。守備兵は盗難防止のつもりで張ったという。羊の歯型は残っていたが、縄は濡れて傷んでおり、すべてを羊のせいにはできない。補償をどう分けるかで小さな会議が長引いた。
クラウスは占領した関所の秩序を示すため、兵の要求を認めたいと言った。皇帝は「秩序とは強い側の言い分を通すことか」と尋ねた。軍は関所を保持するが、そこへ通う牧畜民の仕事まで軍の所有物になったわけではない。裁判官は縄の位置を改め、弁償額を減らした。
兵舎の壁には、羊が近づかぬよう低い木柵が置かれた。牧畜民は余った板を持ち込み、兵は井戸を使う日を決めた。怒鳴り合った者同士がすぐ仲良くなったわけではない。翌週も検査で時間がかかり、不満は残った。しかし人が再び顔を合わせる場所では、翌週の決まりが必要になる。
調停が終わると、兵は羊の数を覚えてしまったと苦笑した。組合長は軍の縄の置き方を図へ描き、次に来る若い牧人にも教えると約束した。皇帝は裁判記録の写しを関所だけでなく組合へも渡させた。
皇帝は裁判記録の最後に、通訳の名前が抜けているのを見つけた。山の方言を訳した娘の言葉がなければ、双方の主張は正しく伝わらなかったはずだ。レオンハルトは彼女への報酬を追加させた。判決文の外にも、判断を支えた仕事があった。




