書庫の空いた棚
レオンハルトは帝国の地方役所へ、徴発済みの家畜数を報告させた。返ってきた帳面の数字は整っていたが、牧草地の面積が去年と変わらない。牛を減らせば放牧の回し方も変わるはずだと指摘すると、役人は去年の帳面を写したと認めた。
皇帝は罰を急がず、なぜ現地を調べられなかったかを尋ねた。測量官の半数が国境道路へ移され、残りは洪水で橋を渡れなくなっている。机で作れる数字には限界があった。リディアは人を戻せば軍用地図の更新が遅れると説明した。皇帝は優先度を並べ直し、牛を飼う村へ一名だけ派遣した。
地方書庫には古い地籍図を入れる棚が空いていた。十年前の火災で地図が失われたのに、紛失届の写しだけが別棟に残っている。若い司書は、失われた資料を存在しないものとして扱うのが怖いと言った。レオンハルトは棚を埋めるよう命じず、空いたまま失われた年を記す札を許した。
軍務院ではクラウスが「この程度の記録を待っていたら夏が終わる」とこぼした。皇帝は、軍用地図に牧草が描かれないからこそ、騎兵の飼料を村から奪い尽くす危険があると答えた。馬は王座への忠誠で歩くのではない。
調査に出た官吏が村へ着くと、牛は夏毛へ生え替わっていた。帳簿にない子牛も二頭いる。家族は申告すれば税が増えると思って隠していたが、官吏はまず生存率を尋ねた。
二週間後、調査官の簡単な報告が届いた。牛の頭数は想定より少ないが、農家は共同で乾草を蓄えていた。全村へ同じ徴発率を適用すれば、小さな家ほど冬を越せない。皇帝は税率を一律にせず、役人に再計算を命じた。数字に現れない生活を見失う国は、戦場の勝利だけでは長く立てない。




