荷札を失った薬箱
王国の救護所へ届いた薬箱には、誰宛てか示す荷札がなかった。中身は熱を下げる薬草と包帯で、帳簿にある品目とは合っていたが、どの病院へ運ぶ予定だったのか分からない。セイルが倉庫へ呼ばれたのは、軍が勝手に受領してよいか判断できなかったためだ。
薬師は封印の紐に見覚えがあると言った。王都のギルドではなく、南の療養院が使う結び方である。だが同じ紐を使う工房は多い。セイルは荷車の車軸についた赤土を見つけ、送り主よりも先に来た道を尋ねた。御者は二度の迂回をしており、最初の積み場所を知らなかった。
ミレーネへ照会すると、王都の冒険者が運んだ荷の一部に行き先違いがあったと分かった。急ぎの物資を同じ倉で積み替えたため、古い札だけが残されたのだ。セイルは箱を開けた量と戻した量を薬師に記してもらい、未開封の分を療養院へ送った。
救護所の少年兵は、目の前に薬があるのに使えないのはおかしいと言った。セイルは、別の病院にも同じ熱で苦しむ人がいると説明した。それでも夜になって少年が発熱すると、薬師は保管分の使用を認めた。帳簿にない薬でも、目の前の命のために必要なことはある。後から使った理由を残せばよい。
新しい木札は、荷車の揺れで割れぬ厚さが必要だった。倉の職人は試作品を十枚作り、軍の御者に持たせて往復させた。
翌朝、療養院から礼状と不足品の一覧が届いた。間違いは正されたが、遠回りで一日分の薬が遅れた事実は消えなかった。セイルは荷札の材を紙から薄い木片へ替える提案をした。雨で文字が滲まぬように。彼の指は結び目をほどく最も速い場所を知っていても、失った一日を取り戻すことはできなかった。




