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《適正》の軍師――SSS級冒険者は、天才皇帝の侵攻に挑む  作者: 竜太郎


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水位を刻む石

雨が止んだ朝、セイルは川沿いの村で、三本の石柱に残された水の跡を見た。昨夜の水面は白い線を一つ越えている。村の水番は、今は岸が静かでも上流の雨が二日遅れて届くと教えた。帝国の砂州へ続く浅瀬だけでなく、王国側の畑も同じ川に面していた。


工兵は観測柱を軍の柵の内側へ移そうとした。敵の偵察に位置を知られるのを恐れたのである。水番は反対した。柱の高さを揃え直せば、何十年も続いた記録を失う。セイルは二人の話を聞き、柱そのものを残し、読み取りに来る住民へ軍の通行札を渡すことにした。


昼、子供が小石で柱の数字を削っているのを見つけた。洪水の高さを覚えようとしていたらしい。水番は怒らず、古い増水の年を指でなぞらせた。セイルは削れた数字を写し、職人へ修復を頼んだ。兵のために立つ見張り台と、暮らしを守る石は役割が違う。


川面には帝国の舟が一隻見えたが、こちらへは来ない。セイルは浅瀬へ兵を集めず、畑の低い方に積んだ干し草を移すよう勧めた。農夫は戦闘より干し草の損失を恐れ、家族を呼んで運んだ。夕方になると水はわずかに増し、石柱の欠けたところまで泡が上がった。


水番の帳面には、同じ水位でも流れが異なる日があると小さな字で追記されていた。上流の木を切った年には、濁りが長く続いたという。兵の測量では数字を揃えることが重んじられるが、村の観測には数字の理由も残っていた。


セイルは水番から旧暦の洪水帳を借りた。そこには大雨の記録だけでなく、水が引いた後に何日も井戸が濁った年が記されていた。今の兵数表には、その日数がない。彼は帳面を返す約束をして、必要な行だけ別紙に写した。最も近い道が最も早い避難路とは限らないことを、川は何度も教えていた。

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