二つの国の雨
レオンハルトが帝都の窓から雨を見ていたとき、王国からの報告が届いた。峠の関所を失った王国軍は後方へ守りを移し、砂州では兵がなお向かい合っている。どちらも大きな攻勢には出ていない。皇帝は地図上の二つの地点を結ぶ道を見た。
クラウスは山の関所を足掛かりに、王国の中央街道へ迫る案を示した。レオンハルトは道の修理状況を確かめ、少なくとももう一季節は大型の馬車が安定して通れないと知った。進める場所はある。しかし、その先で兵を留める準備がない。
リディアは帝国の南部でも雨で橋が傷んだと報告した。軍の進路とは無関係の橋だが、そこが崩れれば穀物の輸送が止まる。皇帝は軍用路より先に修理する案を受け入れた。クラウスは不満そうだったが、兵の食料は南部の畑から来る。
リディアは宮殿の小さな窓から、雨に濡れた衛兵の外套を見た。外套の裾は新しい布で継がれている。軍服の更新予算を後ろへ回したためだと、彼女は皇帝へ伝えた。レオンハルトは兵の服が破れる速度と、補充が届く日を確認させた。戦場の距離は測れても、衣の継ぎ目が広がる日までは地図に書けない。 窓の外で衛兵が交代すると、濡れた石畳に足跡が残った。皇帝は一日の作業を終え、まだ何も決着していない峠と砂州の報告を封筒へ入れた。翌朝も同じ場所で仕事をする人間がいる。
午後、王国の使節から民間通行の記録が届いた。峠の牧畜民は二度の通行を終え、羊を失わずに戻ったという。レオンハルトはその一文を読み、戦場で得た土地が住民に何を与え、何を奪うのか考えた。
雨は夜まで続いた。王国にも同じ雲が流れているだろう。皇帝は前線への命令書を閉じ、明朝の水位報告を待つことにした。進めない日は敗北ではない。しかし何も変わらない日でもなかった。




