知らせを運ぶ馬車
峠の関所から戻った負傷兵の家族が、王国軍の丘まで面会に来た。馬車には妻と二人の子供が乗り、荷台には乾いたパンが積まれていた。セイルは門で足止めされた一家を見つけ、治療所へ案内する許可を求めた。
兵は脚を痛めていたが、意識ははっきりしていた。妻は顔を見ると、何も言わず椅子へ座った。子供たちは父親の包帯を見て、触ってよいか尋ねた。兵は頷いたが、痛む脚には触れさせず、片方の手を握らせた。
面会が終わるころ、同じ治療所へ別の兵が運ばれてきた。砂州での小競り合いで矢を受けたという。セイルは医師の邪魔にならぬよう一家を外へ連れ出した。子供の一人が「父さんもまた行くの」と尋ねた。セイルには答えられなかった。
馬車が遠ざかったあと、セイルは救護所の掲示板を確認した。面会できる時間が小さく書かれており、遠くから来た家族には読みにくい。係に頼み、大きな字の札を入口へ出してもらった。父を心配する子供が次に来たとき、門の前で無駄に待たずに済むように。 丘の見張りは帰る一家へ敬礼した。子供は意味が分からず、父に教わった通りに小さく手を上げた。セイルはその姿を見送った。次は面会のためでなく、一緒に家へ帰る馬車になってほしいと思った。
妻はパンを全部置いていこうとしたが、治療所の係は家族の分も持ち帰るよう言った。軍には配給がある。今夜の子供の食事まで奪う必要はない。セイルは馬車の車輪を確かめ、雨で緩んだ軸の縄を締めるのを手伝った。
家族が帰ったあと、負傷兵はセイルに「役に立てず申し訳ない」と言った。セイルは謝る必要はないと答え、医師の示した休養期間を守るよう頼んだ。峠から帰れたことが終わりではない。家で子供の声を聞ける日まで、まだ道が残っていた。




