一通の返書
王国の使節から、峠の関所に残した住民の通行について問い合わせが届いた。レオンハルトは書状を読み、条件を調べさせた。王国は敗れた関所を取り戻す要求をしていない。ただ、山の牧畜民が家畜を連れて往来できるか知りたいという。
クラウスは王国軍の斥候が牧畜民に紛れると懸念した。皇帝も否定しなかった。だが道を閉じ続ければ羊は痩せ、集落の生活は立ち行かない。レオンハルトは昼の明るい時間に限り、武器を持たぬ住民が通れる日を設ける案を出した。
国境の守備隊からは、検査の人数が足りないと返事が来た。皇帝は後方の書記を増やすのではなく、現地の牧畜組合に通行簿を作ってもらう方法を提案した。氏名を軍が勝手に集めるのではなく、本人たちが飼う羊の数と行き先を記す。必要以上の個人情報を求めれば、住民は隠れるようになる。
牧畜民が羊を連れて関所を通る日は、軍の巡回時刻も変更された。皇帝はその調整で現地の守備が手薄になる場所を尋ね、別の歩哨を配置した。通行を許せば危険がなくなるわけではない。危険を見ながら通す方法を選ぶのも、領地を預かる者の責任だった。 検査の日には、羊の頭数を間違えた老牧人が軍の列を止めた。兵は叱りかけたが、現地の組合長が引き取って数え直した。皇帝はその報告を受け、通行人を疑う前に数え違いを訂正する余地を残すよう命じた。
王国の使節は合意を受け入れ、通行を知らせる書面を両国の村へ配った。すべてが安全になったわけではない。兵の中には、敵国の人間を通すことに不満を持つ者もいた。
レオンハルトは自分の署名が、戦を続ける意思と住民を通す許可の両方に並ぶのを見た。矛盾はある。しかし関所を得たからこそ、その道で暮らす人々への責任も増えた。




