門を得た日
帝国軍が峠の関所へ入った報告を受け、レオンハルトはまず占領地の人数を確認した。敵兵はほとんど後退し、帝国側の負傷者も少ない。クラウスは敵が逃げたと笑ったが、皇帝は背後の細道がどこへ続くか尋ねた。王国軍はあの道を知っていて、退く判断を早くした可能性がある。
サビーネは関所の井戸を確かめ、水量は小隊が使う程度と報告した。大軍は養えない。食料庫には腐った麦が残り、石門の蝶番は錆びていた。レオンハルトは修理を命じたが、砦を大きく造り替える案は退けた。山の上に新しい城を築けば、兵糧と材木を運ぶための道から造らねばならない。
関所の近くには王国の牧畜民が暮らしていた。帝国の旗が立ったのを見て、羊を連れて山へ逃げているという。皇帝は追跡を禁じ、通行を求める者が来れば武器の有無を確認して通すよう命じた。羊の群れを奪えば、冬の毛織物も失われる。
関所の井戸は冷たく、兵は桶を下ろして水を飲んだ。だが水面の近くに古い木屑が浮いており、軍医は検査まで使わぬよう求めた。レオンハルトはその知らせを聞き、最初の補給へ水を加えさせた。井戸があることと飲めることは別だ。奪った土地の価値は、初日には測り切れない。
クラウスは「王国軍を追えぬなら、何のために門を得た」と問うた。レオンハルトは地図の川岸を指した。王国軍が峠を放置できなくなれば、中央の予備兵の配置が変わる。関所は王国への圧力として価値を持つ。
その夜、帝国の旗は石門に掲げられた。王国の旗を吊るしていた金具が外され、別の色の布が揺れた。レオンハルトは勝った日の記録へ、物資不足と狭い退路も並べて記した。




