峠を越えた理由
レオンハルトが山岳部隊の報告を読んだとき、王国の関所が少人数で守られていると分かった。クラウスは今こそ攻めるべきだと訴えた。皇帝は兵の数だけでなく、関所の背後にある道の形を尋ねた。二騎が通れる程度の狭さで、重い車は通れないという。
関所を得ても、そこから軍を一気に進めることはできない。だが王国に兵を置かせ、川の守りを薄くする価値はあった。レオンハルトはサビーネに、峠へ進む小部隊の指揮を任せる案を示した。彼女は撤退条件が明確なら引き受けると答えた。
皇帝は進軍命令へ、占領ではなく通路の調査を第一の目的と記した。敵兵が少なければ関所を確保する。多ければ戻る。夜間は無理に進まない。クラウスには消極的に映ったが、山では退き方を先に決めなければ小さな勝利が全滅へ変わる。
峠の進軍へ出た兵の中には、村の商人に道を譲ることを恥と感じる者もいた。サビーネは隊を止め、道幅を指した。「ここでぶつかれば羊も兵も崖へ落ちる」と説明した。皇帝は報告を受け、指揮官が敵の前に出る前から地形を使って判断したことを評価した。勇ましさで崖の幅は広がらない。
兵が峠へ向かう朝、山麓の村から荷車が出た。軍用ではなく羊毛を運ぶ商人だった。サビーネは道を譲り、軍をしばらく止めた。商人は帝国兵を見て怯えたが、荷を取り上げられずに通り過ぎた。
その報告を聞き、レオンハルトは峠の地図に赤い線を一つ足した。商人が普通に通る道を軍が奪ってしまえば、翌月の帝国も困る。彼の狙いは王国を屈服させることだが、そのために山の暮らしをすべて壊す計画は持っていなかった。




