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《適正》の軍師――SSS級冒険者は、天才皇帝の侵攻に挑む  作者: 竜太郎


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見えなかった旗

王国軍の斥候が持ち帰った旗は、帝国のものではなかった。山の古い関所に掲げられていた王国の旗で、紐が切れて地面に落ちていたという。そこはまだ王国の守備範囲だが、春になってから巡回が減っている。セイルは旗の泥を払い、関所への道を確かめた。


峠の小隊長は、帝国兵が来る前に旗を守りたいと主張した。セイルは兵を連れて関所へ向かった。石門には誰もおらず、食料庫の戸だけが開いている。盗難の跡は見えない。しかし入口の砂には小さな馬蹄の跡が残っていた。


その夜、帝国の斥候らしい二騎が遠くの尾根を越えた。セイルは追うより、関所の井戸と通路を調べた。通路は一人ずつしか通れず、敵が少数なら守れる。だが大量の兵を留めれば、退路が塞がる。関所を死守するより、背後の高い道を確保した方がよいと考えた。


旗を届けた伝令は、畳んだ布に付いた泥を自分で拭き取ろうとした。セイルは今はそのままでよいと言った。どの場所で外され、どの道を通って戻ったか、傷が示すこともある。伝令は布を箱へ入れ、箱の外に関所の名を書いた。取り戻す日を約束できなくても、何が失われたかは残せる。


ダリオは兵を増やす案を出したが、セイルは関所へ常駐する人数を抑えるよう進言した。もし帝国が本格的に来れば、関所そのものを捨てて後退できる配置が必要だった。将軍は渋い顔で認め、撤退の合図も決めた。


旗は新しい紐で石門に戻された。小隊長はその下に立つと、守る覚悟が強まったと言った。セイルは否定しなかった。ただし旗が残っても、人が戻れなければ意味がない。帰路の足場を何度も確かめた。

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