遠い港の書類
帝都へ港湾長が来た。前線で使った舟を直すため、北港の船大工が軍に取られ、商船の修理が止まっているという。レオンハルトは港の帳簿を読み、遅れた船便の中に冬の魚油と南部の陶器があることを知った。魚油は灯りに使われ、陶器は病院の薬を保存する容器だった。
軍の舟を修理しなければ砂州の兵が困る。だが商船を止め続ければ帝国の町も暗くなる。皇帝は港湾長に工房ごとの修理能力を尋ねた。大きな船を扱える職人と、小舟の底を直せる職人は同じではない。軍が徴用した者の一部は、そもそも川舟の修理に慣れていなかった。
レオンハルトは技能に合わせて仕事を割り直し、軍用の小舟は河岸近くの工房へ回した。港の熟練工は商船へ戻す。クラウスは前線に遅れが出ると抗議したが、皇帝は今月の舟の数と来月の商船の数を並べた。
港湾長は帰路の馬車から、止まったままの商船を見た。使われない船にも潮は当たり、縄は弱くなる。皇帝は港の点検予定を読んで、動かしていない船の保守を削らないよう命じた。兵器に使われないものだからと放置すれば、戦が終わったあとに動かせる船がなくなる。 港の労働者は、修理が再開すると聞いてもすぐには安心しなかった。道具が売られた工房もある。皇帝は工房の再開に必要な設備の一覧を求めた。単に命令を戻せば職人も戻るという話ではなかった。止まった日数を数える人々が、港には多かった。
港湾長は帰る前に、船が止まると仕事を失う人が多いと話した。荷役人、縄職人、油売り、宿屋。レオンハルトは港の修理予定を公示するよう命じ、いつ船が動くか人々に知らせた。
報告を終えた港湾長の帽子には、海の塩が白く残っていた。皇帝はその汚れを見て、前線の川から遠い海で暮らす者も戦の重みを受けていると知った。




