山羊皮の手紙
レオンハルトの机へ、峠の集落から山羊皮に書かれた短い手紙が届いた。帝国の測量兵が通行を止めた水汲み場について、いつ再開できるか知りたいという。文字を書いたのは村の教師で、住人全員が署名代わりの小さな印を押していた。
クラウスは敵領に住む者の要望を軍が聞く必要はないと主張した。皇帝は「我々の兵が止めたのだろう」と問い返した。落石の危険があることは報告に記されているが、帝国軍がいつまで通行を制限するかは決めていなかった。
レオンハルトは測量隊へ、危険な部分だけを明示し、集落が使える時間と道を示すよう命じた。許可証ではなく、危険箇所と作業予定を伝える書面でよい。帝国はそこを占領していない。占領地のように扱えば、山に暮らす人々の反感だけが残る。
測量兵と村の者は、落石の網を張る高さについて意見を違えた。兵は岩に近い位置を選び、村人は雪が積もる季節を考えて低い杭を避けた。皇帝は報告を読み、冬に使う者の知識を優先するよう伝えた。一度の作業で仕上がる網ではないが、次の雪までに点検できる仕組みが残った。 網を張った場所には村の子供が通らないよう木札を立てた。帝国兵は自分たちの言葉で書こうとしたが、村の教師が昔からの地名を添えた。知らない軍の標識より、馴染みの地名の方が人に届く。
数日後、測量隊は落石を防ぐための網を張った。村人の手も借り、軍から縄と鉄杭を提供した。ただし網は春雨で緩むため、通行を完全には戻せない。村の教師は礼とともに、まだ通れない時間帯を知らせる手紙を書いた。
皇帝は返書を見て、山羊皮の裏に押された印の数を数えた。戦を始めた自分の命令が、遠い集落の水汲みの順序まで変えている。それを知った以上、知らぬふりをすることはできなかった。




