峠から来た使者
王国の西峠から、炭焼きの集落を代表する若者がセイルを訪ねてきた。帝国の測量隊が山道を通る際、集落の水汲み場を一時閉鎖したという。兵は水を奪わず、危険だとして通行を止めただけだが、炭焼きたちは山の上から水を運べず困っていた。
ダリオは帝国の山越えに備え、峠へ兵を送ろうとした。セイルは村人が望んでいるのは敵軍への攻撃ではなく、水汲み場へ戻れることだと伝えた。軍を増やせば、かえって争いが大きくなる恐れがある。
彼は集落の若者と山へ向かった。水汲み場へ通じる道には帝国兵の新しい足跡があり、崖の上から石が落ちていた。危険だという警告自体には理由がある。セイルは別の湧き水を探し、地面の湿り方から小さな水脈を見つけた。だが汲める量は少なく、家族全員の水には足りない。
山の湧き水を汲みに来た女性は、桶を一つ落として割ってしまった。セイルが拾うと、底が長く使われて薄くなっていた。女性は謝る必要もないのに頭を下げた。軍の人間に手を借りたことを恐れているらしい。彼は桶を返し、村の木工職人が修理できるか尋ねた。助ける側にも、近づき方を誤る危険はある。
村人は帝国軍への不満を口にしたが、若者の一人は、落石に気づかせたのも帝国兵だと言った。敵か味方かだけで山の危険が変わるわけではない。セイルは軍と村の双方に、落石の補修が必要なことを報告した。
若者は帰る前に「いつなら元の井戸へ行けますか」と尋ねた。セイルは分からないと答えた。水脈を見つけることと、道を安全にすることは違う。それでも翌朝から桶を運ぶ人数は少し減らせた。




