夏を見越す皇帝
帝国の食料庫から、春の乾燥肉に虫が入り始めたという報告が届いた。冬の貯蔵法を続けた結果、暖かい日が増えて害虫の動きが戻ったらしい。レオンハルトは食料庫の移転を命じる前に、保管方法を変える余地があるか調べさせた。
軍の倉庫を建て直すなら前線の木材が足りなくなる。換気を増やせば湿気は減るが、塵と虫も入りやすい。倉番は油布で覆う案を出し、料理人は塩を追加する案を示した。皇帝は医師へ食品として安全か確かめさせた。
クラウスは目前の戦闘のため、傷んだ肉でも兵に食わせる必要があると言った。レオンハルトは反対した。病人を増やせば槍を握れる人数が減る。兵糧を守るために兵の身体を壊してはならない。代わりに傷みの早い食料から先に消費し、保存できる穀物は夏へ回すことにした。
厨房の長は、傷んだ肉を捨てるよう言われても、倉番が責められるのではと心配した。皇帝は調査で分かった保存方法の不備を記録させ、隠蔽がなければ個人の責任へ押し込まないよう命じた。倉番は虫を見つけた時点で報告していた。報告した者を罰する国では、次の虫は見つからない。 仕入れを担当した兵は食料が廃棄されるのを見て涙ぐんだ。皇帝は補償でなく再発防止の話をするよう求めた。食べ物は戻らないが、経験は残る。
その決定で、帝都の食堂へ納める予定だった豆が軍へ移る。リディアは影響を指摘し、市場の価格が急に上がらぬよう備蓄を放出する計画を立てた。皇帝は兵の食事を変えたつもりだったが、町の食卓にも同じ決裁が届く。
夜、庭先で夏の虫が鳴き始めた。父の治世には、この季節に戦の報告を聞くことが少なかった。レオンハルトは音を聞き、戦争の季節を自分の意志で選べないと知った。




