倒れた石工
石切り場の親方が作業中に倒れた。敵の攻撃ではなく、岩棚から逃げる際に痛めた腰が悪化したのだ。セイルは救護所へ行き、医師から長い安静が必要だと聞いた。親方は自分が働けなくなると砦の修理が止まると心配していた。
ダリオは軍の石工を派遣しようとしたが、親方の弟子はその申し出を断った。「石を積む手順が違う。ここで切った石は、村の橋にも使うんです」砦だけなら軍人が積める。しかし村の古い水道へ合わせるには、親方の癖を知る者が必要だった。
セイルは作業を分けた。軍の工兵には運搬と仮止めを任せ、仕上げは弟子たちが指示する。石を選ぶときは親方に見てもらい、重い物を持たせない。親方は寝台から何度も身を起こそうとしたが、弟子に叱られると渋々横になった。
親方の寝台のそばには、弟子が運んできた小さな石片が並んだ。石の厚さや欠け方を触れば、現場で何をしたか分かるという。セイルはそれを見て、自分が最適な角度を選べても、石工の指先ほど材の性質を知らないと感じた。親方は石片の一つを撫で、「こいつはまだ使える」と弟子に伝えた。 弟子は親方の指摘に頷き、磨く順番を変えた。直した水道の端に、工房の小さな印を入れる許可を得た。村人が不具合を見つけたとき、誰に知らせればよいか分かるようにするためだ。
現場へ戻ると、帝国兵が退いた森の入口に踏み跡が残っていた。追跡を望む兵がいたが、セイルは防備を整え、職人が安全に働ける時間を優先した。敵の行方は別の斥候へ任せればよい。
一週間後、親方の弟子が小さな水路の石を収めた。流れは以前と同じ音を立てた。セイルが親方へ伝えると、老人は石の高さを問うた。自分の代わりに働いた者が何を覚えたか、それだけが気になるらしい。




