降伏しない五人
レオンハルトは石切り場で起きた小競り合いの報告を受けた。偵察兵五人のうち三人が帰還し、二人が王国軍に拘束されたという。作戦上は避難民の工房を通らずに通れる道があった。隊長は最短路を選んだが、石切り場に人がいることを知らなかったらしい。
「斥候が交戦するのは失敗だ」とクラウスが言った。皇帝も同意した。しかし帰還した兵の一人は、王国側の男が持った鉄棒の動きを詳しく話した。槍の穂先が触れぬ距離を一瞬で選び、追撃より職人の安全を優先したという。
レオンハルトはセイルの名を思い浮かべた。だが本人を見た者がいない以上、確定はできない。優れた剣士や護衛は王国にも多い。帝国の兵が負けた理由を一人の化け物のせいにすれば、次の兵も同じ誤りを繰り返す。
捕虜になった二人の家族へは、所属隊から生存通知を出すことになった。皇帝は文面の中に、処刑も処罰も決定していない事実を明記するよう命じた。知らせを曖昧にすれば、人々は最悪の想像をする。敵に捕らわれたことを恥として隠させないためにも、生きているという言葉を先に届けたかった。 軍医は捕虜になった兵の薬が足りるか気にしていた。レオンハルトは両国の医療品交換が続いていることを確認し、次便を使う案を認めた。
皇帝は斥候の行動規定を改めた。民間の作業場を通るときは、敵兵の有無だけでなく職人の退避路も確認する。命を懸けた斥候へ、後から仕事を増やすのは容易い。レオンハルトは現場で判断できる人数に限るようクラウスへ釘を刺した。
夜、負傷した帝国兵の手紙が届いた。「敵は殺せたはずの我々を追わなかった」とある。皇帝はその理由を紙で決めなかった。次に戦う日、相手が同じ選択をする保証はないからだ。




