石切り場の一閃
王国の石切り場で、帝国の偵察兵と鉢合わせたとの急報が来た。そこには砦の補修に使う切石が積まれ、避難民の職人も働いている。セイルは近くにいた小隊を率いず、ダリオの部下の指揮官へ現地の案内を申し出た。命令系統を崩せば、石切り場に残る人間へ二つの指示が届く。
現地へ着くと、職人たちは岩棚の裏に避難していた。帝国兵は五人。こちらを見つけると、先頭の槍兵がセイルへ突いてきた。身体が半歩斜めに滑る。彼は落ちていた短い鉄棒を拾い、槍の柄へ当てた。最も小さな動きで穂先を外せたが、腕に衝撃が残った。
二人目が剣を抜く。セイルは鉄棒を持ち替え、相手の手首を打った。剣が落ちるのと同時に、石棚の上で別の足音がした。背後の職人が逃げようとしている。彼は追撃をやめ、その職人が落石に巻き込まれぬ位置へ押し戻した。
石棚の上から逃げた職人の帽子が落ち、戦闘が終わってから見つかった。帽子には軍のものではない、家の印が縫い付けられていた。セイルは拾って親方へ渡した。職人たちの名前は、戦報には労働者としてまとめられてしまう。しかし各々に戻る家がある。物を返す相手を間違えないため、名前を聞いておきたかった。
王国の指揮官が到着し、帝国兵は二人が武器を捨て、三人は森へ退いた。セイルの腕には青い痣ができ、握る指がしばらく震えていた。最善の動きができても、衝突した鉄の重さを消すことはできない。
石切り場の親方は、敵より先に落ちた切石を数えた。補修用の材が何個割れたのか、それで春の家が何軒直せなくなるのか。セイルは答えられず、運搬路の安全を確かめた。戦いは短かったが、石は元の形には戻らなかった。




