剣を選ぶ指
砂州の争いから戻った王国兵の一人が、訓練場でセイルへ木剣を突きつけた。仲間を負傷させた敵の剣士を恐れており、次に会えば勝てるよう教えてほしいという。セイルは木剣を受け取り、相手の動きを見た。腰を落とすタイミングと、足を引く順序が噛み合っていない。
軽く合わせただけで兵の剣は外へ流れた。兵は何度も挑み、そのたびセイルは体勢を変えた。剣技を学んだ覚えは乏しいのに、その一瞬に最も通る動きだけが身体に現れる。しかし兵の肩は上がり、呼吸が荒れていた。
「その剣で何を守る」とセイルが尋ねると、兵は「次こそ負けたくない」と答えた。セイルは剣を置き、兵を水桶へ連れていった。負けたくない気持ちは否定しない。だが剣を交える前に喉が乾き、握る手が震えれば、どんな型も役に立たない。
訓練を見ていた古参兵は、セイルが一瞬ごとに構えを変えるのを不思議がった。「師匠は何人いるんだ」と尋ねられ、セイルは島で剣を教えてくれる者はいなかったと答えた。古参兵は信じかねたが、追及しなかった。目の前の男が正しい動きを選べることと、他人へ同じ動きを教えられることは違うと、訓練の途中で分かったからだ。
休んだあと、兵は自分から盾を持ち出した。長い剣では守りにくい距離があり、盾で隣の兵を支える方が得意だという。セイルはその選択を肯定した。彼の《適正》が示すのは、自分の身体で取り得る行動だ。別の人間の適した武器まで決められない。
夕暮れ、兵は盾の縁を磨きながら、傷を負った仲間が手術を終えたと聞いた。セイルは木剣を棚へ戻した。訓練で一度も剣を落とさなかったことより、その報告を聞いた兵の肩が下がったことの方が、今夜は大きく見えた。




