砂州の代価
王国の上流観測所から、帝国兵が砂州に渡ったという急報が来た。セイルはダリオと馬を走らせた。見張り台には矢が刺さり、川辺の若い兵が肩を押さえている。帝国軍はまだ対岸から遠いが、砂州の草を踏み潰して小さな陣を作り始めていた。
王国の騎兵隊長は、兵が少ないうちに突き落とせると主張した。セイルは川へ目を向けた。砂州は一見乾いているものの、浅い水路で王国側の土地と隔てられている。騎兵が一気に突入すれば足を取られ、後続は渡れない。
彼は射手を高い草地へ移す案を示した。敵兵を直接狙うより、砂州へ物資を運ぶ細い水路を監視し、舟が着ける場所を制限する。ダリオは指揮官として承認し、射手を動かした。セイル自身は負傷兵を救護所へ運ぶ道を選び、血を止める術者を呼びに走った。
救護所で肩を負傷した若い見張りは、敵の舟を見てすぐに警報を出したことを何度も説明した。セイルは彼を責めず、誰が矢を撃ったか確認できたかを尋ねた。兵は首を振った。敵の射手は葦に隠れていた。戦闘の混乱で分からなかったことも、あとから報告に残してよい。分からない部分を埋めるために嘘をつく必要はなかった。
午後、帝国兵は砂州に留まり、王国軍も正面攻撃を控えた。矢の交換で二人が負傷し、舟の一隻が岸へ押し流された。どちらも決定的な損害ではない。それでも川岸の耕地へ向かう農道が再び封鎖され、避難していた家族は春の作業に戻れなくなった。
夕方、セイルは観測所の脇で折れた矢を拾った。敵もこちらも射程を測っている。砂州一つの争いが、多くの暮らしの道を塞ぐ。最適な反撃を探すより先に、渡れなくなった村道の数を記録した。




