渡河前の影
セイルは河岸の見張りから、帝国軍の舟が増えたと聞いて急行した。水面には舟の影が幾つも見える。だが土手に登ると、実際に動く舟は三隻だけで、残りは岸へ伏せた木枠の影だった。陽の角度で舟に見えるよう置かれたのか、偶然なのかは分からない。
ダリオは東の守備隊を増やそうとしていた。セイルは急ぐ前に山道の報告を確かめた。峠では帝国軍の旗が昼間に見えており、王国の斥候が警戒を強めている。川と山の両方が動いているように見えるが、帝国にそれぞれ本格攻撃するだけの兵を同時に集められるとは限らない。
「では、どちらが本命だ」と将軍は聞いた。セイルは答えを急がなかった。彼の《適正》は、今ここで何を確認するべきかを導く。遠い宮殿で皇帝が何を考えたかを覗き見るものではない。彼は両方へ予備兵を分けず、中央の古い街道に待機させる案を出した。
中央街道の石を直していた工兵は、崩れた舗装の下から古い水道管を見つけた。通す予定の荷車が重いため、管を塞がず保護する必要があった。セイルは工兵長へ地面の断面を確かめてもらい、補強の順序を変更した。軍の応援路として選んだ道が、昔から村の井戸へ水を送る道でもあった。
その街道は舗装が割れている。速く進めないが、川と峠の中間にあり、片方へ応援を送りやすい。ダリオは道路の修復を工兵へ命じた。修理の槌音が昼まで続き、避難民からうるさいと苦情が届いた。
セイルは工兵に作業時刻を知らせる札を立ててもらった。敵を迎える準備が、背後の人間を傷つける必要はない。夕暮れ、見張りの報告はまだ増えていた。どちらが本命なのか、今夜も分からないままだった。




