手当ての針
王国の野戦診療所では、負傷兵の手当てに使う針が足りなくなっていた。敵の矢傷より、荷役で傷ついた手や、湿地を歩いて裂けた足裏が多い。治療師のマーラは、まだ使える針を火にかけて繰り返し使っていた。鉄が鈍れば糸を通す穴が広がり、縫った皮膚を余計に傷つける。
セイルは怪我の数ではなく、針の減り方を尋ねた。「一人が何本使うか」と聞かれたマーラは戸惑った。負傷者によって違う。彼は裂傷の種類を三つに分け、清潔な布を細く裂いて固定する傷と、縫合が必要な傷を区別する表を作った。治療の判断そのものはマーラに任せた。
薬草商の荷車が足止めされていると知ると、川沿いの検問所まで赴いた。兵は荷を調べるため止めたと説明したが、検査を待つ間にも薬は傷む。セイルは封印を破らず確認できる荷札の付け方を示した。警備を緩めず、検査を早く終わらせるためだ。
夕方、針と薬が届いた。診療所の寝台では、片腕を吊った歩兵が故郷の妹への手紙を書こうとしていた。書けない手を見て困っていると、隣の兵が代筆を申し出た。セイルはその二人に紙を渡し、余った蝋燭を机へ移した。
マーラは帰り際、セイルに尋ねた。「あなたは治癒のスキルを持っているんですか」
「いいえ。私は、怪我を治せません」
「それでも今日は多くの人が助かりました」
マーラは使い終えた針を数えて布で包んだ。針箱の底には、折れた針も捨てずに入れてある。後で鍛冶師が金具に戻せるからだ。セイルはそれを見て、手当てをする人間が傷を治す以外の仕事まで抱えていると実感した。
セイルは針箱の蓋を閉じた。人を治せるのは彼女たちだ。自分はその手が途中で止まらないようにしただけだった。




