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《適正》の軍師――SSS級冒険者は、天才皇帝の侵攻に挑む  作者: 竜太郎


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期限のある椅子

セイルのために用意された本営の椅子には、背もたれの一部が欠けていた。彼は木片を拾ったが、修理に取りかかる前に将軍ダリオから呼ばれた。臨時参与に与えられた七十日の期限を、軍の誰も好ましく思っていない。軍人は生涯を懸けるのに、冒険者は期限が来れば去れるからだ。


「戻る場所がある者は気楽でいいな」と副官が言った。セイルは返答に迷った。十歳のとき、戻る場所はなくなった。王都に帰ったあとも、冒険者ギルドの食堂があるだけで、家族が迎えてくれるわけではない。


幼い日の儀式を思い出した。神官が石板に浮かんだ二文字を読み上げた。「適正」。剣術でも魔法でもない、ただそれだけ。周囲の笑いはすぐに終わり、父は彼を見なくなった。島へ運ぶ船の櫂が鳴る音だけが、十年たっても耳に残っている。


本営に戻ったセイルは、椅子の欠けた部分を直した。使い古しの釘を一本抜いて、木片を打ち直す。そこへ伝令が現れ、後方の避難路で馬車が転覆したという。誰かが立つより早く、セイルは現場の地図を求めた。


雨のあと滑る坂に砂利を敷くより、上側の畑道を一時的に開けたほうが早い。農家へ通行料を払うこと、畑の垣根を修復することも条件に入れた。将軍は渋々了承した。


副官は翌日、セイルが椅子を直したと聞いても謝らなかった。ただ会議前に水を一杯置くようになった。二人の間に友情が生まれたわけではない。仕事を妨げない程度の距離が、ようやく整っただけだった。


戻ると椅子はまだそこにあった。セイルは腰掛けてみた。今度は軋まない。ここで働く日数は限られているが、彼のいなくなった後も誰かが使う。その事実には、少しだけ心が落ち着いた。

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