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《適正》の軍師――SSS級冒険者は、天才皇帝の侵攻に挑む  作者: 竜太郎


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皇帝の三つの時刻

帝国軍の渡河作戦書には、攻撃開始の時刻が三つ記されていた。明け方、昼前、日没直前。それぞれ別の部隊に示され、クラウスは混乱の原因になると抗議した。レオンハルトは三つとも本物の作戦候補だと説明した。川の流速、雲の厚さ、王国軍の移動によって、選ぶべき時刻が変わる。


伝令を送る時間も計算に入れなければならない。皇帝は各指揮官に一つずつ条件を与え、予定が変わるたび全部の命令を書き直す必要をなくした。サビーネには、水位が規定を超えたら自隊は進まない権限を残した。決断の中心を一つに集め、現場の目まで奪うつもりはなかった。


リディアは「失敗した場合、どの条件を誤ったのか曖昧になります」と言った。皇帝は記録係を各部隊につけるよう命じた。勝ったときだけ皇帝が手柄を受け取る仕組みなら、誰も本当の失敗を報告しなくなる。


三つの時刻を示す命令を受けた指揮官の一人は、部下へどう説明すべきか戸惑った。皇帝は詳細を隠すことにこだわらず、条件が変われば時刻も変わると伝えるよう認めた。兵が待つ理由を知らなければ、急な変更は命令違反の種になる。情報を伏せるべき所と、知ってもらうべき所の境を決めた。


夕方、敵の観測台が新しくできたとの知らせが届いた。レオンハルトは予定を破棄しなかった。王国が備えていることは、すでに作戦の前提だった。彼は王国軍を一つの地点から動かすより、複数の不確かな地点へ引きつけることを狙っていた。


宮殿の廊下で皇妹エリスが「いつ戦争は終わるの」と尋ねた。彼は足を止め、「まだ決められない」と答えた。三つの時刻は決められる。それでも国がいつ静かになるかは、紙に書けなかった。

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