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《適正》の軍師――SSS級冒険者は、天才皇帝の侵攻に挑む  作者: 竜太郎


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空の舟に乗る兵

レオンハルトはサビーネからの水路調査記録を読み、転覆した舟の乗員に怪我がないことを確かめた。あの舟には武器を積まず、わずかな重石だけを入れていた。人の命を賭けずに川の流れを知るための試験だったが、舟を漕いだ兵は岸へ打ちつけられていた。


クラウスは結果を聞いて渡河を急いだ。浅瀬の位置が分かれば兵を渡せる。皇帝は試験時の流速と風向きを問い、半刻後の測定値が違っていることを指摘した。浅瀬は一つ見つかったが、そこを通る水は刻々と変わる。


サビーネの報告には、王国側の葦原で新しく人が動いた形跡もあった。相手は帝国の準備を見ている。秘密の奇襲は難しい。それでも皇帝は川へ舟を出す目的を変えなかった。王国軍を一箇所に集めさせれば、別の峠の守りが薄くなるかもしれない。


転覆した舟を直した船大工は、板の接ぎ目に砂粒が詰まっていると指摘した。遠くから見れば同じ舟でも、底に残った傷は使い方を物語る。皇帝は次の試験へ修理後の記録を添えるよう命じた。舟一隻の傷から川の癖を推測することはできても、推測を確かめず進軍へ変えるわけにはいかない。


リディアはその判断が軍費をさらに増やすと指摘した。舟を造り続ければ木材が足りず、港の修理も止まる。皇帝は新しい舟の発注を抑え、手持ちの舟を使い回すよう命じた。敵に見せるための兵器に、帝国の暮らしを削り続けさせるつもりはなかった。


その夕方、王国側の葦が風で一斉に傾くのを監視兵が報告した。皇帝はふと、向こうにも風向きを測る者がいるのだろうと思った。見えている敵だけを相手にする戦なら、こんなに手間はかからない。

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