抜け道ではない窪地
王国の見張りが、帝国の兵が川辺の低い土地へ薪を運んでいると報告した。砦を造るには湿りすぎている。セイルは地図を見て、冬のうちにできた新しい砂州へ降りた。遠くに見える帝国兵は薪ではなく、束ねた軽い板を積み上げているようだった。
軍議でダリオは船着き場の建設を疑った。セイルはそれだけではないと思った。増水のあとの川には、上流から流れてきた砂で浅くなる場所がある。敵が板を運ぶなら仮設の渡り床に使える。しかし板を見ただけで渡河点を特定するのは危険だった。
彼は夜に偵察を出す代わりに、川下の葦原へ小さな観測所を作る案を出した。敵の目につきやすい高台より、川の広さを毎朝比べやすい位置である。葦を刈れば隠れ場所が減るため、必要な道幅だけを残して兵を入れた。
葦原の観測所に配された若い兵は、毎日同じ川を見続けるのが苦手だった。三日目には水面ばかり見て背後の草を見落とした。セイルは交代時の報告に、前日と違うことを一つ記す欄を増やした。兵は流木の位置を書き、次の日には鳥の減った場所を記した。敵が現れない日も、目を使い続ける練習にはなった。
見張りの三日目、砂州の向こうで帝国の舟が一隻転覆した。兵が岸へ上がるのは見えたが、板は流されていった。セイルは舟の数より、帝国側がすぐに別の舟を下ろさなかったことを気にした。敵は渡る準備だけでなく、川を試している。
彼はダリオへ、川辺のすべてを塞ぐのは不可能だと告げた。代わりに、渡られたあとどの道で兵を集めるかを定める。地図には抜け道が何本も描けたが、春の地面は紙の線より弱かった。




