戻らない二十人
王国の斥候二十人が峠へ出たまま帰らなかった。セイルは伝令から聞き、すぐに山へ入ろうとしたが、ダリオが止めた。帝国軍の誘い出しなら、救援が次々に消える。隊を率いた士官は地図の上で優秀だったが、季節の沢の位置まで把握していたかは分からない。
捜索隊は四人に絞られた。セイルと山に詳しい猟師、治療師、一人の衛兵。峠の石場には戦った痕跡がなかった。雪解け水が通る溝に、切れた革紐が一つ落ちている。隊が急いで通ったのは分かるが、向かった先は見えない。
セイルは川音の届き方から、崩れた岩壁の裏に浅い空洞があると気づいた。近づくと呼吸のような音が聞こえた。斥候の一人が脚を折り、仲間に支えられて横になっていた。残りは川の対岸に避難しており、流れが強くなって戻れないという。
戻った斥候のうち最年少の兵は、救援を待つ間ずっと川の音が怖かったと打ち明けた。セイルは怖がるなと言わなかった。水の音を聞き、増水の兆しに気づいた者もいた。怖さに負けて突っ込まず、助けを待ったことにも意味がある。兵は濡れた靴を脱ぎ、ようやく肩の力を抜いた。
セイルは一本の綱で全員を渡す案を捨てた。途中の石が滑りやすく、治療師が運ばれる負傷者を支え切れない。川上の浅瀬まで大きく回り込み、翌朝から二隊に分かれて順番に戻すことにした。彼の判断で帰還は一日遅れた。
二十人は全員戻ったが、隊長は帰還後に任務から外された。許された道を勝手に短縮し、増水予測を無視していたためだ。セイルは処分に口を挟まなかった。命を救うことと、次に同じ危険を起こさせないことは別の仕事だった。




