山の声が消えた日
王国軍の西側にある峠から、三日に一度届く炭焼きの報告が途絶えた。セイルはダリオから状況を聞き、偵察へ出ることになった。雪の残る峠へ向かう道は狭く、馬は使えない。彼は土地を知る猟師と二人で山へ入った。
途中、鳥の群れが一斉に飛び立った。セイルの身体は岩陰を選び、猟師も同じ場所へ身を伏せた。尾根の向こうに帝国軍らしい旗が見えたからだ。数は十数人。大型の武器は見えないが、測量具を持っている。敵は山越えの道を探しているのかもしれなかった。
猟師は襲いかかるよう囁いた。セイルは首を横に振った。彼らの位置は高いものの、退路のない斜面だ。少数を倒しても後続が来れば抜けられない。代わりに足跡を荒らさぬよう身を引き、炭焼き小屋へ回った。
見つかった炭焼き小屋には、使い終えた灰を撒く場所が整然と区切られていた。猟師は家族が慌てて逃げたのでないと分かり、笑った。セイルは残された燃えさしを埋め、風で再び火が付かないよう土を被せた。短い偵察で敵の動きは少し見えたが、住民が丁寧に暮らしてきた跡の方が鮮明だった。
小屋には誰もいなかったが、薪が乾いたまま積まれていた。炉の灰も新しい。出入り口の裏に炭の欠片で「南へ移る」と短く書いてある。猟師はほっとした。山の住人は兵に会う前に、自分たちで安全な場所へ動いていた。
峠を下りたセイルは、敵斥候の位置と炭焼きの無事を別々に報告した。翌朝、ダリオは西側の見張りを増やしたが、炭焼きの移転先を軍の宿営地にはしなかった。住民が身を守るために見つけた道を、すべて軍に明け渡させる必要はない。




