塩のない街道
帝国軍の南方輸送路で塩が不足した。食料の保存だけでなく、馬や兵が汗で失う分にも塩は必要になる。港に荷はある。しかし山を越える街道で橋が崩れ、荷車が進めない。レオンハルトは海路で北へ回せるかと尋ねたが、港湾長は今月の潮を理由に難しいと答えた。
クラウスは軍の倉へ残る塩をすべて前線へ送るよう求めた。リディアは都で食料を扱う者たちが困ると反対した。皇帝は量を決める前に、街道の橋を調べさせた。橋脚は健全で、落ちたのは木の床板だけだった。工兵が修理できる。しかし軍の工兵は前線の橋を直している。
レオンハルトは山村の大工組合へ修繕を依頼した。兵役免除と代金を提示すると、組合長は拒んだ。「免除されるはずのない者しか残っていません。年寄りに橋を背負わせるのですか」皇帝は契約を改め、作業日数を短くして軍から人足を出させた。
組合長の孫は修繕中の橋へ昼食を運び、軍の人足が村の大工と同じ丸太を担いでいるのを見た。かつて軍の徴発で父の工具を失った一家だったが、今回は契約書と代金がある。孫は作業する祖父へ水を渡し、皇帝の名を口にしなかった。彼らが求めたのは遠い宮殿の賞賛でなく、次も壊れぬ橋だった。
修繕した街道を最初に通ったのは軍の荷車ではなく、山羊を売りに行く村の親子だった。衛兵が止めようとすると、工兵長は検査さえ済めば通してよいと伝えた。橋は帝国軍だけのものではない。
荷が帝都へ届いた日、レオンハルトは前線の塩配分を見直した。足りなかったのは一部の道で、帝国全体の塩が消えたわけではない。遠く離れた一枚の床板が、皇帝の作戦を数日動かした。




