兵を数える鏡
レオンハルトのもとに、王国軍が丘へ新たに五千人を入れたという報告が届いた。斥候が朝霧に見た旗の数から推定したという。クラウスは増援の前に攻めるべきだと迫ったが、皇帝は報告書の時刻を問うた。同じ斥候が日の出前と日が昇ってから、同じ道を見ていた。
霧の濃さが変われば、兵の影も旗の形も別物に見える。レオンハルトは王宮の鏡の間へ斥候を呼び、同じ兵を異なる角度から見せた。柱に映った鎧が人数を増やす。斥候は実験の終わりに、遠くの旗が動く順序しか見ていなかったことを認めた。
皇帝は彼を処罰しなかった。その代わり、人数の確定と目撃の報告を分けるよう命じた。「五千を見た」と「五千に見えた」は違う。クラウスは慎重さが過ぎると言ったが、霧の向こうへ兵を送るなら不確かな数字でよいわけがない。
鏡の間から出た斥候は、自分の報告が軍を誤らせかけたと肩を落としていた。皇帝は彼に新しい観測任務を与えた。今度は旗の数ではなく、朝と昼の位置の違いだけを記録する。信用を失った者を同じ役目に戻すことに不安もあった。しかし失敗を認めた者の目が、次はどこを見つめるか知る価値があった。
一方で皇帝は、王国側が本当に補給を増やした形跡にも気づいていた。丘の裏手に車輪の幅が違う馬車が通り、焚き火の煙が夕方まで続いている。兵数は不明でも、備えが進んでいることは確かだった。
夜、確かな情報だけで描き直した地図には白い余白が広がった。レオンハルトは余白を消さなかった。知らないことを知らないまま認め、そこから次の一手を決める。父の代から仕えている老将が、珍しく「先帝にもお見せしたかった」と呟いた。




