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《適正》の軍師――SSS級冒険者は、天才皇帝の侵攻に挑む  作者: 竜太郎


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二筋の流速

レオンハルトは春の川を見たことのない将校を、帝都の小さな水槽へ集めた。工兵が作った模型には、王国の丘と帝国の高台が縮尺を合わせて置かれている。流れを入れると、一見浅い場所の底にだけ砂が溜まり、対岸の石垣が削られた。


「実際の川は模型ほど従順ではありません」と技師が断った。「知っている」と皇帝は答えた。「だから違いを聞く」技師は過去の洪水記録を広げ、今の流れが二本に分かれ始めていると説明した。帝国軍の渡河路は流速の遅い側にあるが、その場所へ木片が溜まれば橋脚に圧力がかかる。


クラウスは増援を待ちわびていた。王国が水門を修理しているとの情報を得て、妨害工作の好機だと主張する。レオンハルトはその水門の位置を確かめた。壊せば王国軍の畑だけでなく、占領した高台の下にも水が流れ込む。


模型を囲む将校たちの中には、川へ入ったことのない者もいた。皇帝は一人を水槽の前へ呼び、細い棒を川底へ差し入れさせた。水は棒の側面を押すだけだが、持つ位置によって手に伝わる力が違う。将校は驚き、実際の兵が流れの中でどれほど不安定になるか想像した。机上で知ることもあるが、身体で知るための工夫も必要だった。


皇帝は工作を禁じ、代わりに上流の観測地点を二つ増やした。技師は水位だけでなく流速を測れる装置を取り付けた。測定には数人の兵を割く必要がある。その数人は剣を持って進軍する代わりに、川へ石の錘を下ろすことになった。


夕方、最前線から橋板の交換を終えたとの報告が届いた。しかし模型の水面では別の木片が橋脚に引っかかっている。レオンハルトは完成という文字の脇に、増水時の再検査を追記させた。橋を完成させることと、橋を渡れることは違う。

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