見張りの足跡
王国の北丘で夜間の警報が二度鳴った。いずれも敵兵は見つからず、見張り同士が互いを敵と誤認していた。セイルが巡回表を確かめると、夜番の交代が重なり、同じ小径へ二組が別々の命令で入っていた。
「一人減らせば済む話だ」とダリオは言った。しかし人数を減らすと、雪解けでぬかるんだ斜面を見張る場所がなくなる。セイルは交代時刻をずらすことを提案した。人を減らすのでなく、同じ場所へ行く理由を整理する。実際に巡回させると、一組の隊は予定より早く戻れず、湿地に足を取られた。
見張りの一人は足首を痛めていた。それを申告すれば持ち場から外されると思い、黙っていたという。セイルは軍医へ連れていった。本人の意思と無関係に歩幅を最適化できても、傷がないことにはならない。
足首を痛めた兵は休養を言い渡され、代わりに記録係を任された。書くのが遅いと嘆いたが、彼はいつ誰が湿地へ入ったか細かく覚えていた。セイルはその記憶を聞き、報告を一緒に整理した。兵は翌朝、隊の歩行経路を示す小さな図を書いた。傷ついた脚はまだ治らないが、夜警を支える仕事は残っている。
夜、交代表を改めたあとも、警報が一度だけ鳴った。今度は谷から逃げてきた山羊だった。怯えた山羊は誰のものか分からず、兵たちは笑ったが、セイルは首輪の印を記録させた。村の者が後日探しに来たとき、軍が勝手に家畜を食べたと思われては困る。
見張りが何も見なかった夜にも、知らなかったことは残る。彼は小径を下りながら、警報を鳴らした兵を叱らぬよう頼んだ。誤報を減らすことと、知らせる勇気を奪うことは同じではなかった。




