春の兵糧ではない麦
皇帝レオンハルトのもとへ南部州の小麦収穫予測が届いた。冬を越した畑の一部が霜で傷み、予定より少ない。軍務院は民間のパン用麦を軍の備蓄に回すよう求めたが、州から来た農務官は「種にする分だけは触れないでほしい」と訴えた。
クラウスは来月の戦に備えるべきだと言った。農務官は来年の農に備えるべきだと答えた。どちらも国のための仕事である。レオンハルトは収穫を過大に見積もった原因を尋ね、農務官が霜の被害を冬の時点で報告していたことを知った。書類は別の部署で止まっていた。
兵糧の数量をただ削れば部隊が困る。皇帝は南部の種麦を保護する一方、帝都の倉に残っている別の穀物を出すよう命じた。兵に新しい配給を受け入れてもらうには、炊事兵の火加減から教え直さねばならない。麦だけを替えても、明日の食事は生まれない。
穀物倉では新しい豆の炊き方を試す兵が集まり、鍋から上がる匂いに顔をしかめた。料理人は煮る前に水に浸す時間を説明したが、前線には十分な水がない。皇帝は小規模な炊事試験を許可し、水の使用量も記録させた。兵糧の変更に署名するだけで食卓が整うわけではない。その手間を知るための試験だった。
農務官は作付けの前に畑の排水溝を掘り直したいと話した。若者が軍へ出ているため、必要な人数が足りないという。レオンハルトは予備役の一部を農作業へ戻すことを認めた。剣を握らない日があっても、その者は帝国を支えている。
帰り際、農務官が皇帝に尋ねた。「陛下は、いつまで戦うおつもりですか」レオンハルトは答えられなかった。戦を始めた理由はある。だが種を蒔く人々に、終わりの日付を約束できる理由はまだなかった。




